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(第0番札所 )


(第5話) 第0番札所



 「第0番札所」なるものが存在するらしい。

 お遍路用品の販売や表装のショップで「札所0番」というのがあるが、それと関係は全くない。これは「第0番札所」である。
 一番札所霊山寺の東南約1キロ強のところに、一番前札の「十輪寺」がある。一番前札だから第0番札所にふさわしいと思うのだが、そうではない。実は「第0番札所」なるものは海を渡った中国の西安にあった。

 先般、友人のS氏が中国の西安に旅行し、青龍寺に立ち寄った際の土産として頂戴したのが下の写真にある小パンフレットと「空海記念塔」などの写真である。
 青龍寺は若き日の空海が、恵果から真言密教の教義を受け継いだ記念すべき道場である。同寺には恵果空海記念堂や空海記念碑などが建てられており、1982年善通寺法主によって四国八十八ヶ所の「第0番札所」と命名されたとのことである。


青龍寺遺跡パンフレット


 以下、パンフレット裏面の解説である。(このパンフレットは日本人向けのようで、日本語で書かれている(中国人に第0番札所と言っても誰も理解できないだろう)。そのくせ、表面には「龍寺遺址簡介」などと、ちょっと馴染みのない表現になっているのはなぜだろうか。

 青竜寺は唐の長安城内の新昌坊に位置し、仏教密宗の有名な寺院であった。この寺院は隋の開皇2年(582)に建立されたものである。初めに霊感寺と称されたが、唐の武徳4年(621)から、一時退廃したが、唐の竜朔2年(662)観音寺として再建されたが、唐の景雲2年(744)青竜寺と改称された。唐の会昌5年(845)全国的に排仏事件が起こり、その際、青竜寺も廃棄され、皇室の内園となった。その翌年の5月再び寺院として復活し、護国寺と名付けられた。これはそのまま北宋まで存続していたが、北宋の元祐元年(1086)以後、次第に荒廃し、ついに廃墟となって地上から消えてしまった。
 中華人民共和国成立後、中国共産党と人民政府は文化遺産の保護を非常に重視し、1956年、陝西省人民委員会は青竜寺遺跡を重用文化遺跡と指定し、1982年西安市人民政府は遺跡に管理所を設置した。また中国科学院考古学研究所が二回にわたる発掘調査により、その建築遺跡は七か所もあることが分かった。そして門の跡、塔の跡、殿堂、廊廡などの遺跡が発見され、蓮華紋様の瓦当、鴟尾の残片、筒瓦、三彩仏像の残片、金塗の仏像、経幢などの文物も出土した。これらの出土品は青竜寺の歴史の研究のための確実な物証となっている。
 中国に於いては唐代は仏教の繁栄期であった。唐の有名な高僧恵果が主催していた青竜寺は当時の密宗の重要な道場として一つとして、一時盛大を極めた。仏法を求める為に内外から多くの僧侶がここへ訪れた。とくに日本国の僧侶が中国の仏教から受けた影響が大きかった。日本仏教史における“入唐八家”の中の六家(空海、円行、円仁、恵運、円珍、宗睿)が前後して、青竜寺で仏法を学んだのである。その中にはとりわけ密教阿闍梨嗣を受け継いだ空海は業績抜群であった。紀元804年、日本国遣唐使について長安を訪れた空海は初めに西明寺に住み、後青竜寺の恵果大師に師事して、密教を学んだ。紀元806年、帰国して、日本で真言宗を創立し、日本“東密”の大師と呼ばれている。空海は仏教の布教と同時に、中国の文学、書道、天門、医学などの知識を日本に伝え、中日両国の文化交流の為に大きな貢献をした。
 中日国交回復以来、両国の友好交流は更に発展しつつある。中日両国の文化交流に優れた交流をした空海大師と、その師の恵果大師を記念する為に中日両国共同で青竜寺遺跡に恵果空海記念堂、空海記念碑、青竜寺庭園を建立した。これをもって両大師の業績を表彰し、両国民の先駆者の学び合い、共に進歩するという精神を継承し、世々代々友好していくことを激励するのである。

空海記念塔

 中国語で表したものを日本語に翻訳したものであろうか、文章が若干こなれていない感がある。
 わが友人は「君にとってこれが何よりの土産となるであろう」と、この「第0番札所」と押印した一枚のパンフレットを持ち帰ってくれたのであるが、何にも増してありがたい土産であった。
 青竜寺や空海と恵果の出会いなどについては、司馬遼太郎の『空海の風景』などで詳しく述べられており、それなりに理解はしていたのであるが、「第0番札所」と号していたとは初耳であった。これを思うに、遍路の一部には八十八番札所大窪寺を打った後、お礼参りと称して再び一番札所霊山寺を打つという風習があるのだが、一番へお参りするよりも、この第0番札所にお参りをしたほうがご利益がありそうな気もするのだが、遥か離れた西安のこととて、簡単にはいかないであろう。


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(2010.9.5)
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