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2016年5月27日、京都紫野に雲林院を訪れました。 |
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雲林院周辺地図 |
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《雲林院》 京都市北区紫野雲林院町23 |
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以下は、雲林院門前に立てられた京都市の駒札です。 |
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雲林院総観 |
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山門に架かる寺号標 |
山門からの境内 |
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観音堂 |
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手水舎 |
「雲林院」 |
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紫雲弁財天と遍照歌碑 |
十三重の石塔 |
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《二つの『雲林院』》 |
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本曲の梗概にて記しましたが、本曲には、前場はほとんど同様であるが、後場が全く異なる「世阿弥自筆本」が存在します。これは世阿弥時代に古作を手直ししたものです。すなわち後場で、ツレに二条の后が登場し、業平に連れ去られた后を取り戻そうとする、后の兄・藤原基経がシテとなり、業平は登場しません。この「世阿弥自筆本」をさらに改変したものが現行曲となっています。 |
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大槻能楽堂自主公演能・番組 |
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《六段》 |
《『雲林院』と詩歌》 |
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本曲には『和漢朗詠集』や『古今和歌集』などからの引用が多く見受けられます。以下、それらを拾ってみましょう。 |
《現行『雲林院』と和漢朗詠集》 |
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① |
サシ ワキ「花の新に開くる日初陽(そやう)潤へり。鳥の老いて歸る時。薄暮(はくぼ)陰(くも)れる春の夜の。月の都に急ぐなり |
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菅原文時「春色雨中に尽きたり」の一節。 |
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② |
ワキ「遥かに人家を見て花あれば便(すなは)ち入るなればと。木陰(こかげ)に立ち寄り花を折れば |
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白居易 「春を尋ねて諸家の園林に題す」の一節。 |
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③ |
シテ「誰そやう花折るは。今日は朝(あした)の霞消えしまゝに。夕べの空は春の夜の。殊に長閑(のどか)に眺めやる。嵐の山は名にこそ聞け。まことの風は吹かぬに。花を散らすは鶯の。羽風に落つるか松の響きか人か。それかあらぬか木の下風か。あら心もとなと散らしつる花や。や。さればこそ人の候。落花狼藉(らつくわらうぜき)の人其處(そこ)退き給へ |
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大江朝綱 「残春を惜しむ」の一節。 |
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④ |
シテ 詞「さやうに詠(よ)むもありまた或歌に。春風は花のあたりを避(よ)ぎて吹け。心づからやうつろふと見ん。げにや春の夜の一時を千金に替へじとは。花に清香(せいきやう)月に影。千顆万顆(せんくわばんくわ)の玉よりも。寶と思ふこの花を。折らせ申す事は候まじ |
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菅原文時 「暮春、宴に冷泉院の池亭に侍して、同じく花の光水上に浮ぶを賦し、製に応ず」の一節。
春宵一刻 値 千金 |
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⑤ |
ワキ「げにげにこれは御理(ことわり)。花もの言はぬ色なれば。人にて花を戀衣 シテ「輕漾(けいやう)激して影唇を動かせば。我は申さずとも ワキ「花も惜しきと シテ「言ひつべし |
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菅原文時 「暮春、宴に冷泉院の池亭に侍して、同じく花の光水上に浮ぶを賦し、製に応ず」の一節。 |
《現行『雲林院』と和歌》 |
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① |
上歌 (ワキ・ワキツレ)「松蔭に。煙をかづく尼が﨑。煙をかづく尼が﨑。暮れて見えたる漁火(いさりび)のあたりを問へば難波津に。咲くや木の花冬籠り。今は現(うつつ)に都路の。遠かりし。程は櫻にまぎれある雲の林に.着きにけり雲の林に着きにけり |
(古今和歌集・仮名序) |
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による。「ここは難波津で、古歌で名高い花が咲いているのを確かに眺めて…」の意。 |
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② |
シテ「まことの風は吹かぬに。花を散らすは鶯の。羽風に落つるか松の響きか人か。それかあらぬか木の下風か。あら心もとなと散らしつる花や。 |
(古今和歌集・春歌下、109 素性法師) |
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鶯の葉風に花の散ることは、和歌にしばしば詠まれている。 |
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③ |
ワキ 詞「何とて素性(そせい)法師は。見てのみや人に語らん櫻花(さくらばな)。手毎に折りて家苞(いへづと)にせんとは詠みけるぞや |
(古今和歌集・春歌上、55 素性法師) |
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④ |
シテ 詞「さやうに詠(よ)むもありまた或る歌に。春風は花のあたりを避(よ)ぎて吹け。心づからやうつろふと見ん。 |
(古今和歌集・春歌下、85 藤原好風) |
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⑤ |
上歌 地「げに枝を惜しむは又春のため手折(たを)るは。見ぬ人のため。惜しむも乞ふも情あり。二つの色の爭ひ柳櫻をこき交(ま)ぜて。都ぞ春の.錦なる都ぞ春の錦なる |
(古今和歌集・春歌上、56 素性法師) |
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⑥ |
シテ「その花衣を返して着、又寝の夢を待ち給へ |
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による。「花の下に片敷く衣を裏返しに着て寝て、逢いたい人をまた夢見ることを期待しなさい」の意。 |
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⑦ |
待謡 ワキ・ワキツレ「いざさらば。木陰の月に臥して見ん。木陰の月に臥して見ん。暮れなばなげの花衣。袖を片敷き.臥しにけり袖を片敷臥しにけり |
(古今和歌集・春歌下、95 素性法師) |
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素性法師が雲林院の常康親王にあてて、花見のためきたやまのあたりに行っていたおりに詠んだ歌。「花かげ」を雲林院として、そこに宿を求める歌とみる説が大勢である。「なげの」は、なさそうな、から転じて、気のなさそうな、なおざりの、などの意。 |
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⑧ |
後シテ「月やあらぬ。春や昔の春ならぬ。我が身一つは。もとの身にして |
(伊勢物語 四段) |
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昔、東の京の五条に、大后の宮がおられたお邸の西の対に住む女人があった。その人を、本心からというふうではなかったが、じつは深く思い慕っていた男が、訪れてはいたのだが、正月十日あたりのころに、その女人は、よそに姿を隠してしまった。どこそこにいる、とは聞き知ったが、それは特別な人ではないかぎり行き通うことができる所でもなかったので、男はそのまま憂鬱な気持で、過ごしていたというわけだった。翌年の正月がめぐってきて、梅の花が盛りと咲いている。そうした時に、男は去年を恋しく思い、五条の西の対に行って、立って見たり、すわって見たりなどして、あたりを見まわしたが、去年眺めた感じとはまるでちがう。男はさめさ゜めと泣いて、住む人もなく、帰庁敷物など取り払ってがらんとした板敷に、月が西の方に傾くまでにじっと臥せって、わいてくる去年の思い出を歌にした。 |
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⑨ |
クセ 「如月や。まだ宵なれど月は入り。我等は出づる戀路かな。そもそも日の本の。中に名所と云ふ事は。我が大内に在りかの遍照が連ねし。花の散り積る芥川をうち渡り。思ひ知らずも迷ひ行く。 |
(古今和歌集・物名、435 僧正遍照) |
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⑩ |
(クセ アゲハ前)「思ひ知らずも迷ひ行く。被ける衣(きぬ)は紅葉襲(がさね)。緋の袴踏みしだき。誘ひ出づるやまめ男。紫の。一本結(ひともとゆい)の藤袴。萎(しを)るゝ裾をかい取つて> |
(古今和歌集・雑歌上、867 読人しらず) |
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に基づき、「一本故」を「元結」に転じ、その色が「藤(色)」と言いかけて「藤袴」に続けている。「藤袴」は襲の色目の名で、表裏とも紫である。 |
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⑪ |
(クセ アゲハ後)シテ「信濃路や 地「園原茂る木賊色(とくさいろ)の。狩衣の袂を冠の巾子(こじ)にうち被(かづ)き。忍び出づるや如月の。黄昏月もはや入りて。いとゞ朧夜に。降るは春雨か。落つるは涙かと。袖うち拂ひ裾を取り。しをしをすごすごと。たどりたどりも迷ひ行く |
(古今和歌集・春歌下、88 大伴黒主) |
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⑫ |
シテ「松の葉の散り失せず 地「松の葉の散り失せず。末の世までも情知る。言(こと)の葉草の假初(かりそめ)に。かく顯(あらは)せるいにしへの。伊勢物語。語る夜もすがら覚むる夢となりにけりや.覚むる夢となりにけり |
(古今和歌集・仮名序) |
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《自筆本『雲林院』と和歌》 |
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① |
上歌 ワキ「松蔭に、煙を被く尼が﨑、煙を被(かづ)く尼が﨑、暮れて見えたる漁り火の、あたりを問へば難波津に、咲くや木の花冬籠もり、今は現(うつつ)に都路の。遠かりし、程は桜に紛れつる、雲の林に着きにけり、雲の林に着きにけり |
(現行曲①参照) |
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② |
ワキ 「夢に見しごとくの古跡と見えて。甍(いらか)破れ瓦に松生(お)ひたる氣色なるに。花は昔を忘れぬかと。見えたる氣色の面白さよ |
(玉葉和歌集・雑一、1898 諄子内親王) |
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などの心を引いている。 |
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③ |
シテ 「まことの風は吹かぬに、花を散らしつろはもし人の手折るかさなくはまた、枝を木傳(こづ)たふ鶯の、羽風か松の響きか人か、それかあらぬか木の下風か、あら心もとなと散らしつる花やな |
(現行曲②参照) |
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④ |
ワキ 「なにとて素性法師は、見てのみや人に語らん桜花、手ごとに折りて家苞(いへづと)にせんとは詠みけるぞ |
(現行曲③参照) |
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⑤ |
シテ「さやうに詠むもありまたある歌には、春風は花のあたりを避(よ)ぎて吹け、心づからや移ろふと見ん |
(現行曲④参照) |
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⑥ |
歌 「げに枝を惜しむはまた春のため、手折るは見ぬ人のため |
(現行曲⑤参照) |
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⑦ |
シテ「その花衣を返して着、又寝の夢を待ち給へ |
(現行曲⑥参照) |
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⑧ |
上歌「わが名を今は明石潟 地「わが名を今は明石潟、花をし思ふ心ゆゑ、木隠れの花に現はるる、まことに昔を恋ひ衣、ひと枝の花の蔭に寝て、わが有様を見給はば、その時不審を開かんと、夕べの空のひと霞、思ほえずこそなりにけれ |
(古今和歌集・羈旅歌、409 読人しらず─柿本人麿とも) |
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「ほのぼのと明石の~」の歌をもじり、明石潟を原歌の「舟をしぞ思ふ」に代えて「花をし思ふ」の序としたらしい。 |
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⑨ |
ツレ「恥ずかしながらいにしへは、二条の后といはれし身の、なほ執心の花は根に、鳥は古巣に帰り来ぬ |
(千載和歌集・春歌下、122 崇徳院) |
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により、「花は根に、鳥は古巣に」が「帰り来ぬ」の序となっている。この歌は、和漢朗詠集、清原滋藤「花は根に帰らむことを悔ゆれども悔ゆるに益なし、鳥は谷に入らむことを期すれども定めて期を延ぶらむ」に基づいている。 |
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⑩ |
上ノ詠 地「武蔵野は、けふはな焼きそ若草の、夫(つま)も籠もれり、われも籠もれり |
(伊勢物語・十二段、古今和歌集・春歌上、17 読人しらず) |
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古今集の初句は「春日野の」。 |
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⑪ |
下ノ詠 シテ「白玉か、何ぞと問ひしいにしへを、思ひ出づやの、夜半の曉(あかつき) |
(伊勢物語・六段、新古今和歌集・巻四・哀傷歌、851 在原業平) |
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の歌を引く。新古今集の結句は「消なましものを」。「それは白玉か、とあの人が尋ねた時、私は悲しい心で浮かぶ涙を、露と答えて、その露のようにはかなく死んでしまったらよかったのに」の意。 |
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⑫ |
掛合 ツレ「海人の刈る藻に住む虫のわれからと、思へば世をも恨みぬものを |
(古今和歌集・恋歌五、807 典侍藤原直子) |
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の歌による。 |
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⑬ |
シテ「よしや恨みも忘れ草、夢路に帰る物語り、只今今宵現はして、かの旅人に見せ給へ |
(古今和歌集・恋歌五、766 読人しらず) |
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の歌を引く。 |
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⑭ |
ロンギ 地「年を経て、住み来し里を出でて往(い)なば、住み来し里を出でて往なば、いとど深草、野とやなりなんと、亡き世語りも恥ずかしや |
(伊勢物語・百二十三段、古今和歌集・雑歌下、971 在原業平) |
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⑮ |
シテ「野とならば、鶉となりて泣き居らん、假だにやは、君が来ざらんと、慕ひ給ひしもあさましや |
(伊勢物語・百二十三段、古今和歌集・雑歌下、972 読人しらず) |
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古今集の第二・三句は「うづらと鳴きて年は経む」。 |
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⑯ |
地「げに心から唐衣、着つつ馴れにし妻しあれば シテ「遙々来ぬる、恋路の坂行くは |
(伊勢物語・九段、古今和歌集・羈旅歌、410 在原業平) |
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⑰ |
シテ「遙々来ぬる、恋路の坂行くは、苦しや宇津の山 地「現か夢か行き行きて |
(伊勢物語・九段) |
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⑱ |
シテ「遙々来ぬる、恋路の坂行くは、苦しや宇津の山 地「現か夢か行き行きて、隅田川原の都鳥 シテ「いざ言問はん武蔵野とは |
(伊勢物語・九段、古今和歌集・羈旅歌、411 在原業平) |
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による。 |
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⑲ |
地「まことは春日野の、まことは春日野の、飛ぶ火の野守も出でて見よや、上は三笠山、麓は春日野に、伏すや牡鹿の夫も籠もりし、この武蔵塚よりも、終に后を取り返して、帰ると思へば夜も明けて、あたりを見れば、武蔵野にても春日野にもなく、所は都紫野の、雲林院の花のもとに、雲林院の、花の基経や后と見えしも、夢とこそなりにけれ、皆夢とこそなりにけれ |
(古今和歌集・春歌上、18 読人しらず) |
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に基づき、「出でて見よ」を導く。 |
以下に「世阿弥自筆本」による詞章を掲載します。この詞章は、岩波書店・日本古典文学大系『謡曲集』(横道萬里雄・表章校注、1960)に基づいています。なお、上記の「自筆本と和歌」の該当箇所に下線を施しています。 |
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次第 ワキ「藤咲く松も紫の、藤咲く松も紫の、雲の林を尋ねん。 |
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ワキ 詞「面白やな花の都の北山陰、紫野に来て見れば、夢に見しごとくの古跡と見えて、甍(いらか)破れ瓦に松生ひたる気色(けしき)なるに、②花は昔を忘れぬかと、見えたる気色の面白さよ、所は夢に違はねども、逢ひ見し人は見え給はず、かくてはいつまであるべきぞ、帰らん道の家苞(いへづと)にと、木陰に立ち寄り花を折る |
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歌「げに枝を惜しむはまた春のため、手折るは見ぬ人のため |
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問答 シテ「おことはいかなる人にてましませばこの花のもとに休らひ夜に入るまではおんわたり候ふぞ ワキ「これは津の國芦屋の里に公光と申す者にて候ふが、伊勢物語を玩び候ふゆゑかこのご在所を夢に見參らせて候ひしほどにこれまで尋ね参りたり、所は紫野雲の林とまさしく承りて候 シテ「雲の林とは雲林院候、これこそ二条の后の御山荘の跡にて候へ、さては志を感じ、二条の后のこの花のもとに現はれ伊勢物語をなほなほおことに授けんとのおんことにてぞ候ふらん、花の下臥しして夢を待ちてご覧候へ ワキ「さらば今夜は木蔭に臥し、別かれし夢をまた返さん シテ「⑦その花衣を返して着、又寝の夢を待ち給へ ワキ「かやうに詳しく語り給ふ、おん身はいかなる人やらん シテ「その様年の古びやう、昔男となど知らぬ ワキ「さては業平にてましますか シテ「いや |
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掛合 ワキ「不思議な夜更くるままの花のもとに、さもなまめける女人、紫の薄衣(うすぎぬ)に紅の袴召されたるが、忽然として現はれ給ふ、いかなる人にてましますぞ ツレ「恥ずかしながらいにしへは、二条の后といはれし身の、なほ執心の⑨花は根に、鳥は古巣に帰り来ぬ ワキ「さては現に聞き及べる、二条の后にてましますかや、然らば夢中に伊勢物語の、その品々を見せ給へ ツレ「いでいで昔を語らんとて、花の嵐も聲添へて、その品々を語りけり |
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クリ 地「そもそもこの物語りは、いかなる人のなにごとによつて、思ひの露を添へけるぞと、言ひけんことも理(ことわり)かな |
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サシ シテ「そもそもこれはかの后のおん兄(せうと)、基経が魄霊(はくれい)なり、さてもこの物語の品々、夢中に現はし見せんとて、后もここに現はれて、伊勢物語の所から、武蔵野はけふはな焼きそ若草の、夫(つま)とは業平ご詠は后を、取返ししはわれ基経が、鬼ひと口の姿を見せんと、形は悪鬼身は基経か |
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掛合 ツレ「⑫海人の刈る藻に住む虫のわれからと、思へば世をも恨みぬものを シテ「よしや恨みも⑬忘れ草、夢路に帰る物語り、只今今宵現はして、かの旅人に見せ給へ ツレ「忘れて年を経しものを、またいにしへをば見ゆまじとた、武蔵野さして逃げて行けば シテ「武蔵野に果てはなくとても 恋路に限りなかるべきか、いづくまでかは忍び妻の ツレ「昔も籠もりし武蔵塚の、内に逃げ入り隠れければ シテ「まさしくここまで見え給ひつるが、おんうしろ影も絶えにけり、暗さは暗しいかがせん |
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ロンギ 地「⑭年を経て、住み来し里を出でて往(い)なば、住み来し里を出でて往なば、いとど深草、野とやなりなんと、亡き世語りも恥ずかしや シテ「⑮野とならば、鶉となりて泣き居らん、假だにやは、君が来ざらんと、慕ひ給ひしもあさましや 地「げに心から⑯唐衣、着つつ馴れにし妻しあれば シテ「遙々来ぬる、恋路の坂行くは、苦しや⑰宇津の山 地「現か夢か行き行きて、隅田川原の⑱都鳥 シテ「いざ言問はん武蔵野とは 地「まことに東か シテ「もしは都か 地「まことは春日野の、まことは⑲春日野の、飛ぶ火の野守も出でて見よや、上は三笠山、麓は春日野に、伏すや牡鹿の夫も籠もりし、この武蔵塚よりも、終に后を取り返して、帰ると思へば夜も明けて、あたりを見れば、武蔵野にても春日野にもなく、所は都紫野の、雲林院の花のもとに、雲林院の、花の基経や后と見えしも、夢とこそなりにけれ、皆夢とこそなりにけれ |
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(平成28年 5月27日・探訪) (平成28年 9月 4日・記述) |