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2018年9月14日、28日に『龍田』の謡蹟を訪ねるべく、奈良県斑鳩町鎮座の龍田神社および三郷町の龍田大社に参拝いたしました。当初、『龍田』の謡蹟は斑鳩町の龍田神社とばかり考えておりましたが、『神皇正統記』などの資料によくよく目を通しておりますと、むしろ三郷町の龍田大社が謡蹟として妥当であると思われます。また歌に詠まれた龍田川も、古くは現在の大和川であるとのことですので、それで急遽28日に三郷町の龍田大社にお参りした次第です。 |
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龍田大社・龍田神社 近郊地図 |
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《龍田大社》 奈良県生駒郡三郷町立野南1-29-1 |
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龍田大社はJR関西線の三郷駅の北方、徒歩数分ほどの地に鎮座しています。当社については、以下当社のサイトや略縁起記を参考にしています。 |
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龍田大社境内案内地図 |
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龍田大社 朱の大鳥居 |
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境内 鳥居の下より拝殿を望む |
拝殿 |
ご朱印 |
拝殿は舞台作りで、その奥に末社、摂社が祀られ、さらにその奥に本殿があります。本殿の写真はパンフレット所載のものです。 |
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本殿(パンフレットより) |
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高橋蟲麿歌碑 |
参道左手の句碑 |
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蘭陵王の屏風 |
火消し車 |
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風の宮の石柱 |
下照神社 |
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《龍田神社》 奈良県生駒郡斑鳩町龍田1-5-6 |
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龍田神社について、以下 Wikipedia によります。 |
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龍田神社の鳥居 |
龍田川に架かる龍田大橋より東に1キロ弱、国道25号線の北側の旧街道に面して、龍田神社が鎮座しています。古色然とした鳥居には注連縄が飾られ、屋根が付けられており、ちょっと変わった鳥居のようです。境内は龍田大社に比べるとかなり小ぢんまりとしていますが、境内の左側には建造物もなく、広々とした感があのました。 |
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拝殿 |
ご朱印 |
当社の手水舎の水口は鶏です。神の御使いの鶏なのでしょう。 |
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手水舎 |
拝殿前の摂社 |
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拝殿西側の摂社 |
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金剛流発祥之地 |
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ソテツの巨樹 |
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コヽニ |
上に引いた『神皇正統記』によれば、日本の國を創成し、天の御柱・国の御柱となって国家鎮護の根本となり、伊勢神宮にあっては心の御柱となるのが天瓊矛(天逆矛)であり、その守護神である瀧祭の神が龍田明神と同体であるというわけです。 |
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以下に『逆矛』前場の〈クリ〉〈サシ〉〈クセ〉と後場の後シテの登場の部分を引用しています。〈クリ〉~〈クセ〉の詞章については、前述した『神皇正統記』を援用しています。 |
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次に謡曲『龍田』について、考察してみたいと思います。 |
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以下は『新潮日本古典集成・謡曲集』「各曲解題」(伊藤正義校注、新潮社、1986)を参照しています。 |
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竹本幹夫氏は『龍田』は『逆矛』の影響下に作られたとの見解を示されています(『観世』「作品研究 龍田」、昭和54年11月)。上掲のそれぞれの詞章で〈クリ〉が同文となっていること、逆矛についての理解が両者間で一致していることなどが挙げられています。 |
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〈逆矛・ロンギ〉 |
「颯々の鈴の聲。ていとうと打つ波の。鼓も同じ瀧祭の。神は我なりと。 |
〈龍田・キリ〉 |
「久方の。月も落ち来る。瀧まつり 「波の。龍田の 「神の御前に 「神の御前に。散るは栬葉 「即ち神の幣 「龍田の山風の。時雨降る音は 「颯々の鈴の聲 |
〈逆矛・シテ、上歌〉 |
「神南備の。御室の岸や崩るらん。御室の岸や崩るらん。龍田の川の水の色は。濁るとも隔てじな |
〈龍田・クセ、アゲハ〉 |
「神南備の。御室の岸や崩るらん 「龍田の川の水は濁るとも和光の影は明らけき |
(逆矛・一セイ) |
「龍田川。錦織りかく神無月。色づく秋の梢かな |
(龍田・シテ上歌) |
「氷にも。中絶ゆる名の龍田川。中絶ゆる名の龍田川。錦織りかく神無月の。 |
『龍田』には『古今和歌集』をはじめとして、多くの和歌が引かれています。 |
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ワキ「げに今思ひ出したり。龍田川 |
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シテ「 |
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上歌 シテ「氷にも。中絶ゆる名の龍田川。中絶ゆる名の龍田川。錦織りかく |
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上歌「 |
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クセ「 |
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(クセの中) …春は |
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(クセ シテ・アゲハ)「 |
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上述しました「龍田古道」について、記念切手とともにご紹介いたします。 |
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飛鳥時代、推古天皇により置かれた日本最古と云われる大道。シルクロードから繋がる大陸文化の窓口でもあり、斑鳩の里・法隆寺と難波津・四天王寺を結ぶ街道として整備され、壬申の乱の舞台にもなりました。また、道の整備には聖徳太子が関わっていた説もあり、竜田道沿道には、太子ゆかりの古代寺院が立ち並んでいました。 |
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切手に描かれた龍田大社や龍田古道の数葉を以下に。 |
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春の龍田大社 |
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龍田大社の風神大祭 |
秋の龍田大社 |
三室山の万葉歌碑 |
神奈備神社 |
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「風の神」として知られる 龍田大社をモチーフに描く 三郷立野郵便局風景印 |
法起寺三重塔と 龍田川の紅葉を描く 竜田郵便局風景印 |
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大正橋の下流の大和川 |
大正橋の上流、大和川に架かるJRの鉄橋 |
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竜田公園を流れる竜田川 |
最後に龍田川を詠んだ、百人一首の著名な歌を鑑賞いたしましょう。 |
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嵐吹く三室の山のもみぢ婆は竜田の川の錦なりけり |
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上述の『百人一首一夕話』では、能因の歌にある、三室山は武市郡にありとして、竜田川との位置関係の矛盾をついています。上記の逸話にもあるように、能因という人はいささかいい加減なところのある人物で、この「嵐吹く~」の歌も実地に訪れることもなく、想像で詠んだものかも知れません。 |
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歌の心は「神代の昔でさえも、こんなことは聞いたことがない。龍田川が一面に紅葉が浮かべて真っ赤な紅色に、水をしぼり染めにしているとは」というものですが、知ったかぶりをするご隠居が、短歌にいい加減な解釈を加える「千早振る」という古典落語の演目があります。 |
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「そりゃあおかしいや、ご隠居。相撲取りから急に豆腐屋なんて」「まあ、いいじゃないか。実家の商売が豆腐屋だったんだから。」 |
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(平成30年 5月16日・探訪) (平成30年 6月14日・記述) |